テレヴィジョンは、実験室に居て、その映写幕の上へ、例えば銀座街頭《きんざがいとう》に唯今現に通行している人の顔を見ることが出来るという器械だ。これが室内の様子を見るとなると、写真撮影場で使うような眩《まぶ》しい電灯を点じ、マネキン嬢の顔を強照明《きょうしょうめい》することによって、実験室でその顔を見ることが出来る。これが普通のテレヴィジョンであるが、それを赤外線で照らすことにし、この実験室にうつし出そうというのである。
深山理学士は、あの奇怪な轢死《れきし》婦人事件のあった日と前後して、この装置の製作にとりかかった。
それは丁度《ちょうど》新学期であった。この研究所内も上級の大学生や、大学院学生、さては助手などの配属の変更があって、ゴッタがえしをしていた。
赤外線研究の彼の仕事も、従来は助手も置かず唯一人でやっていたが、今度は赤外線テレヴィジョン装置を作ったり、ロケーションにゆかねばならなくなることも判り切っていたので、助手が一人欲しいと予算を出したところ、元来《がんらい》経済難のZ大学なので、助手案は一も二もなく蹴飛《けと》ばされたが、その代り大学部三年の学生で、是非《ぜひ
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