…」
「葬《とむら》いもすみまして、自宅の仏壇《ぶつだん》の前に、同胞《きょうだい》をはじめ一家のものが、仏《ほとけ》の噂さをしあっていますと、丁度《ちょうど》今から三十分ほど前に、表がガラリと明いて……仏が帰って来たのでございます」
「なにーッ、仏が帰って来た?」警官の顔がサッと緊張した。いやな顔をして背中の方に首を廻した刑事もあった。
「死んだ筈《はず》の梅子が帰ってきたんです。こりゃ、てっきり化けて出たのだと思い、一同しばらくは寄《よ》りつきませんでしたが、いろいろ観察したり押問答《おしもんどう》をしているうちに、どうやら生きている梅子らしい気がして来ました。そこで寄ってたかって聞いてみますと、梅子のやつ情夫《じょうふ》と熱海《あたみ》へ行っていたというのです。それを聞いて同胞は、夢のように喜び合ったわけでございますが、一方に於《お》きまして、真《まこと》にどうも……」と隅田乙吉は下を向いて恐《おそ》れ入《い》った。
「莫迦《ばか》な奴ッ」と宿直が呶鳴《どな》った。「では昨夜本署から引取っていった若い女の轢死体というのは、お前の妹ではなかったというのだな」
「どうも何ともはや……
前へ 次へ
全93ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング