長は、面目《めんぼく》なげに下俯《うつむ》いた。
「深山氏とダリア嬢は、調べましたか」
「今度こそはというのでよく調べました。身体検査も百二十パーセントにやりました。ダリア嬢も気の毒でしたが、婦人警官に渡して少しひどいところまで、残る隈《くま》なく調べ、繃帯《ほうたい》もすっかり取外《とりはず》させるし、眼鏡もとられて眼瞼《まぶた》もひっくりかえしてみるというところまでやったんですが、何の得《う》るところもありません」
「ダリア嬢の眼はどうです」
「ますますひどいようですよ。左眼《さがん》は永久に失明するかも知れません。右眼も充血がひどくなっているそうです」
「ダリア嬢は眼のわるい点でいいとして、深山氏の行動に不審はなかったんですか」
「ところが深山氏は閣下にいろいろと詳《くわ》しく説明していた最中《さいちゅう》なのです。深山氏が喋《しゃべ》っているのに、閣下はウーンといって仆《たお》れられたのです。深山氏を疑うとなれば、喋っていながら手を動かして鍼《はり》を突き立てるということになりますが、これは実行の出来ないことですよ」
「すると二人の嫌疑は晴れたのですか」
「まあ、そうなりますネ。二人もこれに懲《こ》りて、今後はどんなことがあっても、あの装置を働かす暗室《あんしつ》内へは行かないと云っていますよ」
「では犯人は一体誰なんです」
「赤外線男――でしょうナ」
「課長さんは、赤外線男だといって満足していられるんですか」
「今となっては満足しています。昨日までは稍《やや》信じなかったですが、今日という今日は、赤外線男の仕業《しわざ》と信じました。この上は、私どもの手で、あの装置を二十四時間ぶっ通しに運転して、赤外線男を発見せずには置きません」
「しかし、レンズは室内を睨《にら》ませたがいいですよ。あの室内に赤外線男がウロウロしているのではネ」
帆村は、課長の勇猛心に顔負けがして、ちょっと皮肉《ひにく》を飛ばした。
7
その次の朝のことだった。
帆村荘六は早く起き出ると、どうした気紛《きまぐ》れか、洋服箪笥からニッカーと鳥打帽子とを取り出して、ゴルフでもやりそうな扮装《ふんそう》になった。
しかし別にクラブ・バッグを引張《ひっぱ》り出すわけでもなく、細い節竹《ふしだけ》のステッキを軽く手にもつと、外へ飛び出した。忌《いま》わしい第一、第二の犠牲
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