りゅうひん》を一つ一つ手にとりあげながら、彼はコンパクト一つにもかなり明瞭な説明をつけ加えた。轢死人は彼の末《すえ》の妹だったのだ。
「このコンパクトですがネ、梅子《うめこ》――これは死んだ妹の名前なのです、梅子はもう五年もこのコティのものを使っていましたよ。ごらんなさい。蓋《ふた》をあけてみると、この乱暴な使い方はどうです。あいつの性格そのものですよ。妹は今年二十四になりますが、どっちかというと不良《ふりょう》の方でしてネ、それも梅子自身のせいというよりも私達|同胞《きょうだい》もいけなかったんです。何《なに》しろ兄や姉が、合わせて八人も居るのです。皆、相当楽に暮しているんです。梅子は末《すえ》ッ子でした。兄や姉のところをズーッと廻ると、あっちでもこっちでも「梅ちゃん」「梅ちゃん」とチヤホヤされ、「ほら、お小遣《こづか》いヨ」と貰う金も、十七八の少女には余りに多すぎる嵩《かさ》でした。梅子は純真な子供心の向うままに、好きなことをやっているうちに、とうとう不良になっちまったんです。このごろでは流石《さすが》の同胞たちも、梅子から持ちこまれる尻拭《しりぬぐ》いに耐《た》えきれなくなって、何でもかんでも断ることにしていたのです。轢死をする前の晩も私のところへ来ましたが、又《また》金の無心《むしん》です。これが最後だというので百円|呉《く》れてやったところ、素直に帰ってゆきました。そのときは、よもやこんな惨《むごた》らしいことになろうとは思いませんでした。……なんですって、警察へ来ようが大変遅かったって、それはこうですよ。ちょっと私は商売のことで午後から出て居りまして帰りが遅かったものですから……」
 顔面《かお》は判らぬが、髪かたちに、それから又身のまわりの品物などを一々|肯定《こうてい》したので、轢死婦人は隅田乙吉の妹うめ子であると断定された。乙吉は幾度も係官の前に迷惑をかけたことを謝《しゃ》し、屍体は持参《じさん》の棺桶《かんおけ》に収《おさ》め所持品は風呂敷《ふろしき》に包んで帰りかけた。
「オイ隅田君、ちょっと待ち給え」司法係《しほうがかり》の熊岡《くまおか》という警官が席から立ち上って来た。
「はいッ」隅田乙吉は、手にしていた風呂敷包みを又|卓子《テーブル》の上に置いて振りかえった。
「君はこんなものを知らんか」
 警官は掌《て》の上に、ヨーヨーを横に寝かした
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