はこの運動場を人間のような恰好して歩いていたというぞ。してみれば、赤外線男とて、地球の重力《じゅうりょく》をうけて歩いているので、空中を飛行しているわけではない。だから身体は見えなくても、大地《だいち》に接するところには、赤外線男の足跡が残らにゃならんと思うよ」
「足跡が見えるなら、靴も見えたっていいでしょう。すくなくとも、靴の裏は見えたっていいわけです。そこには我々の眼に見える泥がついているのですからネ」
 課長と検事とは喋っていながらも、この難問題が自分たちの畠《はたけ》ではないことに気がついた。
「ねえ、君」と検事が鼻に小皺《こじわ》をよせて囁《ささや》くように云った。「これはどうも俺たちの手にはおえないようだよ。第一、知識が足りない」
「そうですヨ」と課長も苦笑した。
「仕方がないから、これは一つ例の男を頼むことにしてはどうかネ。帆村荘六《ほむらそうろく》をサ」
「帆村君ですか。実は私も前からそれを考えていたのです」
 二人の意見は直ぐに纏《まとま》った。そして新《あらた》に呼び出されるべき帆村荘六という男。これはご存知の方も少くはないと思うが、素人探偵として近頃売り出して来た青年で、科学の方面にも相当明るいという人物だった。
 こうして取調べも一と通り終り、報告書も作られたけれど、直接の被害の中にとうとう洩《も》れてしまった一つの重大なる品物があった。それは深山理学士が戸棚の中に秘蔵《ひぞう》していた或る品物だったが、彼はそれを係官に報告しなかった。それは決して忘れたわけではなくて、故意《こい》に学士の心に秘《ひ》めたものと思われる。一体、その品物はどんなものだったか。
 とにかく深山学士研究室の襲撃事件によりて、赤外線男の生態《せいたい》というものが、大分はっきりしてきた。


     5


 帆村探偵を交《ま》ぜた係官の一行が、深山理学士の研究室を訪ねたのは、新しい赤外線テレヴィジョン装置が出来上ったという其《そ》の日の夕刻のことだった。折角《せっかく》作った一台は、無惨《むざん》にも赤外線男の破壊するところとなり、学士も助手の白丘《しらおか》ダリアも大いに失望したが、その筋《すじ》の希望もあって、二人は更《さら》に設計をやり直し、新しい装置を昼夜兼行《ちゅうやけんこう》で組立てたのだった。白丘ダリアは、この事件以来というものは、住居《じゅうきょ》
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