かり、儂《わし》は元の室の土間《どま》の上に転《ころ》がっているという始末《しまつ》。それから駭《おどろ》いて窓から外へ飛び出すと、門衛《もんえい》のいますところまで駈けつけて、大変だと喚《わめ》きましたようなわけです」
「すると、お前が脾腹をやられたとき、何か人の形は見なかったか」
「それが何にも見えませんでございました」
「序《ついで》に聞くが、お前は赤外線男というのを聞いたことがあるか」
「存じて居ります。昨夜のあれは、赤外線男でございましたでしょうか」老人は急に臆気《おくき》がついてブルブル慄《ふる》え出した。
 課長は、用務員を下げると、今度は深山理学士を呼び出した。
「昨夜、貴方の襲撃された模様をお話し下さい」
「どうも面目次第《めんぼくしだい》もないことですが」と学士はまず頭を掻《か》いて「何時頃だったか存じませぬが、研究室のベッドに寝ていた私は、ガタリというかなり高い物音に不図《ふと》眼を醒《さま》してみますと、どうでしょうか。室の入口の扉《ドア》の上半分がポッカリ大孔《おおあな》が明いています。これは枕許《まくらもと》のスタンドを点《つ》けて寝るものですから、それで判ったのです。私は吃驚《びっくり》して跳ね起きました。すると、あの赤外線テレヴィジョン装置がグラグラと独《ひと》り手《で》に揺《ゆ》れ始めました。オヤと思う間もなく、装置の蓋《ふた》が呀《あ》ッという間もなく宙に舞い上り、ガタンと床の上に落ちました。私が呆然《ぼうぜん》としていますと、今度はガチャーンと物凄《ものすご》い音がして、あの装置が破裂したんです。真空管《しんくうかん》の破片《はへん》が飛んできました。大きな廻転盤が半分ばかりもげて飛んでしまう。つづいてガチャンガチャンと大きなレンズが壊《こわ》れて、頑丈《がんじょう》なケースが、薪《まき》でも割るようにメリメリと引裂かれる。私は胆《きも》を潰《つぶ》しましたが、ひょっとすると、これはこの装置で見たことのある赤外線男ではないかしらと考えると、ゾーッとしました。見る可《べ》からざるものを視た私への復讐《ふくしゅう》なのではないかしらと思いました。私はソッと逃げ出し、室の隅ッこにでも隠れるつもりで、寝床《ねどこ》から滑《すべ》り下《お》りようとするところを、ギュッと抱きすくめられてしまいました。それでいて身の周《まわ》りには何の異変も
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