「大抵《たいてい》大丈夫だろう」
帆村は大して心配していない様子だった。
「それにしても、どうして孫火庭は、漢青年に背《そむ》いたんだ」
「大きな金と名誉とを握らされたんだよ」彼は嘔出《はきだ》すように云った。「中華民国の崩壊をなんとかして支えようという某要人《ぼうようじん》が、孫を買収したのだ。王妖順はその要人の一味だ。もし漢青年が今日《こんにち》のように切迫《せっぱく》した時局を知ったなら、彼は立《た》ち処《どころ》に故山《こざん》に帰り、揚子江《ようすこう》と銭塘口《せんとうこう》との下流一帯を糾合《きゅうごう》して、一千年前の呉《ご》の王国を興したことだろう。それは中国の心臓を漢青年に握られるようなものだ。だから当分のうち時局の切迫を漢青年に報《しら》せずに置くことが、必要だったのだ。そうかと云って、彼の生命を断《た》つことは、今日あの辺に巨富《きょふ》を擁《よう》している大人連《たいじんれん》の怒りを買うことであって、それは不利益だ。そこで漢青年を、ソッと幽閉《ゆうへい》して置くことになったのだ。それも普通の方法では、漢青年の疑惑を避けることができないから、あのような面倒
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