って頷《うなず》いた。
「その代り、すばらしい拾いものをした」
「む、なにを拾ったネ」
「カフェ・ドラゴンと、泥船《どろぶね》が沢山|舫《もや》っているお濠との間に、脊の高い日本風の家がある。ところがこの家の二階の屋根にすこし膨《ふく》れたところがある。鳥渡《ちょっと》見《み》たくらいでは別に気がつかないほどの膨らみだ。トランシットでビルディングの上から仔細《しさい》に観察してみると、その膨れた屋根は隣のカフェの煉瓦壁《れんがへき》のところで止っている。僕の眼は、煉瓦壁の上をスルスル匍《は》ってカフェ・ドラゴンの屋根に登っていった。すると其処《そこ》に、大きな煉瓦積の煙突《えんとつ》があるのだ。ところがこの煙突の根元へ焦点《しょうてん》を合《あ》わせてみて判ったことだが、灰色のモルタルの色で、この煙突だけは、つい最近出来たものだということが判った。これは面白いことだ。あの二階家《にかいや》を建てたためにあの煙突ができたと考えることはどうだろう。その次には、二階家につける筈《はず》の煙突を、どうしてとなりにつけたのかと考えてはどうであろうか。さらにもう一つ、日本建の二階家になぜ煙突が入用
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