おり、その中に灰色とも薄紫色ともつかない妙な色の、どろっとしたものが漬かっていた。
「うん、欲しいとおもっていたものが、やっと手に入ったぞ、こいつはほんとうに素晴らしいや」
 吹矢は、にやりと快心の笑みをたたえて、窓ガラスをもとのようにおろした。そして盗みだした太いガラス管を右手にステッキのようにつかんで、地面に下りた。
「やあ、夜の庭園散歩はいいですなあ」
 衛門の前をとおりぬけるときに、およそ彼には似つかわしからぬ挨拶をした。が、彼はその夜の臓品が、よほど嬉しかったのにちがいない。
「うえっ、恐れいりました」
 守衛は、全身を硬直させ、本当に恐れいって挨拶をかえした。
 門を出ると、彼は太いガラス管を肩にかつぎ下駄ばきのまま、どんどん歩きだした。そして三時間もかかって、やっと自宅へかえってきた。街はもう騒ぎつかれて倒れてしまったようにひっそり閑としていた。
 彼は誰にも見られないで、家の中に入ることができた。彼は電燈をつけた。
「うん、実に素晴らしい。実に見事な腸《はらわた》だ」
 彼は、ガラス管をもちあげ電燈の光に透かしてみて三嘆した。
 すこし青味のついた液体の中に彼のいう「腸
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