らその白金の棒に、六百メガサイクルの振動電流を伝わらせると、彼の生ける腸《はらわた》は急にぬらぬらと粘液をはきだす。
それからまた、吹矢は生ける腸《はらわた》の腸壁の一部に、音叉でつくった正しい振動数の音響をある順序にしたがって当てた結果、やがてその腸壁の一部が、音響にたいして非常に敏感になったことを発見した。まずそこに、人間の鼓膜のような能力を生じたものらしい。彼はやがて、生ける腸《はらわた》に話しかけることもできるであろうと信じた。
生ける腸《はらわた》は、大気中に生活しているためにその表面はだんだん乾いてきた。そして表皮のようなものが、何回となく脱落した。この揚句の果には、生ける腸《はらわた》の外見は大体のところ、少し色のあせた人間の唇とほぼ似た皮膚で蔽われるにいたった。
生ける腸《はらわた》の誕生後五十日目ころ――誕生というのは、この腸《はらわた》が大気中に棲息するようになった日のことである――においては、その新生物は医学生吹矢隆二の室内を、テーブルの上であろうと本の上であろうと、自由に散歩するようになるまで生育した。
「おいチコ、ここに砂糖水をつくっておいたぜ」
チコ
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