彼はピューレットを手にもった。そして三脚椅子の上にのぼった。
 ガラス管の中から、清澄なる液をピューレット一杯に吸いとった。そしてそれを排水口に流した。
 そのあとで、薬品棚から一万倍のコリン液と貼札してある壜を下ろし、空のピューレットをその中にさしこんだ。
 液は下から吸いあがってきた。
 彼は敏捷にまた三脚椅子の上にとびあがった。そしてコリン液を抱いているピューレットを、そっとガラス管の中にうつした。
 液はしずかに、リンゲル氏液の中にとけていった。
 ガラス管の中をじっと見つめている彼の眼はすごいものであった。が、しばらくして彼の口辺に、微笑がうかんだ。
「――動きだした」
 腸《はらわた》は、ふたたび、ぐるっ、ぐるっ、ぐるっと蠕動をはじめたのであった。
「コリンを忘れていたなんて、俺もちっとどうかしている」
 と彼は少女のように恥らいつつ、大きな溜息をついた。
「腸《はらわた》はまだ生きている。しかし早速、訓練にとりかからないと、途中で死んでしまうかもしれない」
 彼はシャツの腕をまくりあげ、壁にかけてあった汚れた手術衣に腕をとおした。

     素晴らしき実験

 彼は、別
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