彼はピューレットを手にもった。そして三脚椅子の上にのぼった。
ガラス管の中から、清澄なる液をピューレット一杯に吸いとった。そしてそれを排水口に流した。
そのあとで、薬品棚から一万倍のコリン液と貼札してある壜を下ろし、空のピューレットをその中にさしこんだ。
液は下から吸いあがってきた。
彼は敏捷にまた三脚椅子の上にとびあがった。そしてコリン液を抱いているピューレットを、そっとガラス管の中にうつした。
液はしずかに、リンゲル氏液の中にとけていった。
ガラス管の中をじっと見つめている彼の眼はすごいものであった。が、しばらくして彼の口辺に、微笑がうかんだ。
「――動きだした」
腸《はらわた》は、ふたたび、ぐるっ、ぐるっ、ぐるっと蠕動をはじめたのであった。
「コリンを忘れていたなんて、俺もちっとどうかしている」
と彼は少女のように恥らいつつ、大きな溜息をついた。
「腸《はらわた》はまだ生きている。しかし早速、訓練にとりかからないと、途中で死んでしまうかもしれない」
彼はシャツの腕をまくりあげ、壁にかけてあった汚れた手術衣に腕をとおした。
素晴らしき実験
彼は、別
前へ
次へ
全25ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング