の出ていく扉もなければ、人間の身体が隠れる物蔭もない。するとやっぱり帆村のいったとおりなのである。
また新たなその大きな愕きと、そしていよいよこの部屋の中に、自分は帆村と二人きりなんだと思うと、俄にぞくぞくとしてくる或る危険に対する戦慄《せんりつ》! 光枝は、とんでもないところへ来たものだと、胸がどきどきだ。はじめから安心しきって来ただけに、彼女はこの不意打《ふいうち》に狼狽《ろうばい》するしかなかった。あの入口には、きっともう、扉をしめるとがちゃんと閉る自動錠がかかっているのであろう。壁はこのとおり厚いし、第一窓というものがない。いくら喚《わめ》いたって、もうどうにもなるまい。こうなるのも運命だ。彼女は、すっかり観念して、目を閉じた。
奇妙な任務
そのとき帆村の声が光枝の耳に入った。
「いや、どうも失礼しました。これからお願いする仕事に関して、予《あらかじ》め貴女の処女性反撥力《しょじょせいはんぱつりょく》といったようなものを験《ため》しておきたかったのです」帆村は、急に意外なことをいいだした。
「えっ、まあそんな……」
「でも、こいつばかりは話だけでも信用がなりま
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