脈の所在を書いた地図も書類も、ついに見当らなかったので、光枝はがっかりした。だが帆村は、光枝の耳にそっと口をよせて、
「まだ悲観するのは早い。もう一つ、取って置きのタネがあるんだ」
「まあ、それはほんとですの。そのタネは、なあに」
「それはあの新しい大花瓶の中にあるんだ」
「えっ」
「つまりあの大花瓶の中に、君をいつか愕《おどろ》かせた録音の集音器《しゅうおんき》が入っているんだ。昨夜一晩《さくやひとばん》、あの集音器はこの居間にいて、主人公の寝言《ねごと》を喰べていたんだ。僕はその寝言の録音に期待をもっているんだよ」
「まあ、そんなことをなすったの」
 光枝の愕きはのちに帆村が大花瓶の中に仕掛けた録音線《ろくおんせん》から、主人公の寝言を摘出《てきしゅつ》したときに絶頂に達した。例の不正な鉱脈の秘密が知られるかと気がかりの主人公は、ついに寝言《ねごと》のうちに、いくたびかその鉱山の位置を喋っていたのであった。ここに事件は解決した。
 光枝は、この事件で立役者《たてやくしゃ》ではなかったけれど、科学探偵帆村の活躍ぶりに刺戟《しげき》されて、元のように朗《ほがら》かな気分の女性に返った。
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