しまるように感じて、扉を押した。すると、室内には、入ったすぐのところに大きな衝立《ついたて》があって、向うを遮《さえぎ》っていた。その衝立の向うから、ふたたび声がかかった。
「さあどうぞ。どうぞ、その椅子に掛けて、ちょっとお待ちください。ちょっといま手が放せないことをやっていますから、掛けてお待ちください」
「はあ、どうも。では失礼いたします」
 風間光枝は、挨拶《あいさつ》をかえして、入口を入った左の隅《すみ》のところにある応接椅子に腰を下ろした。その傍《わき》に、別な部屋へいくらしい扉があって、閉っていた。その扉のうえには、どこかの汽船会社のカレンダーが「九月」の面《めん》をこっちに見せて、下っていた。
 光枝の腰を掛けているところからは、やはり衝立の奥が見えなかった。彼女はしばらくじっとしていた。衝立の向うで声をかけたのは帆村であろうが、彼は一体なにをしているのか、ことりとも物音をたてない。
 彼女は、すこし待ちくたびれて、眠気《ねむけ》を催《もよお》した。欠伸《あくび》が出て来たので、あわてて手を口に持っていったとき、突然思いがけなくも、彼女が腰をかけているすぐ傍《わき》の扉が
前へ 次へ
全36ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング