ちました娘でげして……」
「こら、大木屋。こんどだけは特に大目に見てやるが、この次から容赦《ようしゃ》せんぞ。この次は絶対|出入差止《でいりさしと》めだ。特にこんどだけは――おい、なにをぐずぐずしとる。早くその――ええソノ阿魔《あま》っ児《こ》を上へあげろちゅうに」
旦那様は、たいへんな騒ぎ方であった。
帆村は、わざとなんにもこの旦那様について説明をしなかったが、玄関の段でもって、この旦那様のこれまでの半生《はんせい》がはっきり分ったような気がした。なにかぼろい大仕事をして成上った人物で、教育なんぞはないくせに、尖端的《せんたんてき》文化の乱食者《らんじきしゃ》であることが、絵に描いてあるように、光枝にははっきり見えるのだった。
そこで光枝は、早速《さっそく》その夜から、旦那様づきの小間使として、まめまめしく仕《つか》えることとなった。
「ふふふん」ときおり光枝のうしろで、そういう咳《せき》ばらいとも呻《うな》り声ともつかないものが聞えた。そのようなとき、光枝がふりかえってみると、必ずそこに旦那様のきらきらした眼があって、とたんに旦那様は犬にとびこまれた鶏《とり》のようにばたばた
前へ
次へ
全36ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング