ってみる光枝だった。
 彼女の急性悒鬱症《きゅうせいゆううつしょう》については、彼女の属する星野私立探偵所内でも、敏感《びんかん》な一同の話題にのぼらないわけはなかった。だが、余計な口を光枝に対してきこうものなら、たいへんなことになることが予《かね》て分っていたから、誰も彼も、一応知らぬ半兵衛《はんべえ》を極《き》めこんでいたことである。
 ところが、或る日――星野老所長は、風間光枝を自室へ呼んで、
「君はなにかい、帆村荘六《ほむらそうろく》という青年探偵のことを聞いたことがないかね」
 と、だしぬけの質問だった。
 帆村荘六――といえば、理学士という妙な畑から出て来た人物だ。それくらいのことなら光枝も知っているが、他はあまり深く知らない。そのことをいうと、老所長は、
「あの帆村荘六という奴は、わしと同郷《どうきょう》でな、ちょっと或る縁故《えんこ》でつながっている者だが、すこし変り者だ。その帆村から、若い女探偵の助力《じょりょく》を得たいことがあるから、誰か融通《ゆうずう》してくれといってきたんだ。どうだ、君ひとつ、行ってくれんか」
「はあ。どんな事件でございましょうか」
「いや、ど
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