は、横眼をつかって、さも憎《にく》らしげに帆村をじろりと見た。
破壊作業《はかいさぎょう》
その日の夕方、風間光枝はすっかり仕度をととのえ、口入屋《くちいれや》の番頭に化けた帆村に伴われて、問題のお屋敷の裏門をくぐった。
裏門から裏玄関へ。裏玄関といっても、なかなか堂々たるもので、家賃百円を出してもこれくらいの玄関はついていまいと思われる大《たい》した構《かま》えだ。
「ああ大木屋か。たいへん遅《おそ》いもんだから、もう他へ頼んじまった。用はないから、帰れ、帰れ」この家の主人公にちがいない五十を二つ三つも越えた肥満漢《ひまんかん》が、白い麻のゆかたを着て、裏玄関までのこのこ出て来た。よほど暑がり屋と見える。
「へえ、どうも相済《あいす》みませんでございました。じつはこちらさまにきっとお気に入ること大うけあいという上玉《じょうだま》がありましたもんで、それを迎えに行っておりましたような次第《しだい》で――ところがこれが埼玉《さいたま》の在《ざい》でございまして、たいへん手間どれました。ここに控《ひか》えておりますのが、その一件でございまして、在には珍らしい近代的感覚をもちました娘でげして……」
「こら、大木屋。こんどだけは特に大目に見てやるが、この次から容赦《ようしゃ》せんぞ。この次は絶対|出入差止《でいりさしと》めだ。特にこんどだけは――おい、なにをぐずぐずしとる。早くその――ええソノ阿魔《あま》っ児《こ》を上へあげろちゅうに」
旦那様は、たいへんな騒ぎ方であった。
帆村は、わざとなんにもこの旦那様について説明をしなかったが、玄関の段でもって、この旦那様のこれまでの半生《はんせい》がはっきり分ったような気がした。なにかぼろい大仕事をして成上った人物で、教育なんぞはないくせに、尖端的《せんたんてき》文化の乱食者《らんじきしゃ》であることが、絵に描いてあるように、光枝にははっきり見えるのだった。
そこで光枝は、早速《さっそく》その夜から、旦那様づきの小間使として、まめまめしく仕《つか》えることとなった。
「ふふふん」ときおり光枝のうしろで、そういう咳《せき》ばらいとも呻《うな》り声ともつかないものが聞えた。そのようなとき、光枝がふりかえってみると、必ずそこに旦那様のきらきらした眼があって、とたんに旦那様は犬にとびこまれた鶏《とり》のようにばたばた
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