めん》の着物に淡黄色《たんこうしょく》の夏帯をしめた二十歳《はたち》を二つ三つ踏みこえたかと思われる純日本趣味の美女がいた。車内にチラホラ目を覚《さま》している組の連中は、この二人の美しい対照に、さり気ない視線をこっそり送っては欠伸《あくび》を噛みころしていたのだった。
車輪が分岐点《ぶんきてん》と噛み合っているらしくガタンガタンと騒々《そうぞう》しい音をたてたのと、車輌近くに陸橋のマッシヴな橋桁《はしげた》がグオーッと擦《す》れちがったのとが同時だった。乗客は前後にブルブルッと揺《ゆ》られたのを感じた。その躁音《そうおん》と激動に乗せられたかのように、例のワンピースの美少女の身体が前方へ、ツツツーと滑《すべ》った。両膝をもろ[#「もろ」に傍点]に床の上にドサリとつくと、ブラリと下った二本の裸腕で支えようともせず、上体をクルリと右へ捩《よじ》ると、そのままパッタリ、電車の床にうつ伏《ぶ》せになって倒れた。
車内の人々は、少女が居眠りから本眠りとなり、うっかり打転《うちころが》ったのだったと思った。乗客たちは、洋装のまくれあがったあたりから覗いている真白のズロースや、恐いほど真白な太
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