ビス駅を発車し次の目黒駅へ向けて、凡《およ》そその中間と思われる地点を、全速力《フル・スピード》で疾走していた。この辺を通ったことのある読者諸君はよく御存知であろうが、渋谷とエビスとの賑《にぎ》やかな街の灯も、一歩エビス駅を出ると急に淋しくなり、線路の両側にはガランとして人気《ひとけ》のないエビスビール会社の工場だの、灯火《ともしび》も洩《も》れないような静かな少数の小住宅だの、欝蒼《うっそう》たる林に囲まれた二つ三つの広い邸宅だのがあるきりで、その間間《あいだあいだ》には起伏のある草茫々《くさぼうぼう》の堤防や、赤土がむき出しになっている大小の崖《がけ》や、池とも水溜《みずたまり》ともつかぬ濠《ほり》などがあって、電車の窓から首をさしのべてみるまでもなく、真暗で陰気くさい場所だった。この辺を電車が馳《はし》っているときは、車内の電燈までが、電圧が急に下りでもしたかのように、スーッと薄暗くなる。そのうえに、線路が悪いせいか又は分岐点《ぶんきてん》だの陸橋《りっきょう》などが多いせいか、窓外から噛みつくようなガタンゴーゴーと喧《やかま》しい騒音が入って来て気味がよろしくない。という地点へ
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