た被害者達の体内をくぐった弾丸の溝跡《こうせき》の寸法と完全に一致した。
「ではこのピストルは、笹木君のか」警部はきいた。
「私のでは御座《ござ》いません」
「いえ、課長どの。この男が赤星龍子に殺意を持っていたことは確かなんです。この手紙をみて下さい」そう云ってる多田は、龍子から笹木にあてた手紙の束《たば》をさし出した。それを読んでみると、このところ両人の関係が、非常に危怡《きたい》に瀕《ひん》しているのが、よく判った。
笹木光吉は不貞不貞《ふてぶて》しく無言だった。大江山警部はこの場の有様と、帆村探偵の結論が大分喰いちがっているのを不審《ふしん》がる様子でチラリと帆村探偵の顔色を窺《うかが》った。
「そのピストルは犯人が直接に用いたピストルと違っています」帆村はピストルを調べたのち静かに言った。
「溝跡《みぞあと》までが同じであるのに、違うというんですか」警部は、すこし冷笑を浮べて云った。
「そうです」帆村はキッパリ答えた。「これも犯人のトリックです。犯人はピストルの弾丸《だんがん》には人間で言えば指紋のようにピストル独特の溝跡《こうせき》がつくこと位よく知っていたのです。彼はそこ
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