》の、内面に板を張った縦長《たてなが》の壁となりそれから右へ四角い窓が開いています。もし車外から彼女の心臓を射ったとすると、この窓枠の縁《ふち》をスレスレに弾丸が通るはずです(と、彼は紙に書いた電車の図面の上へ鉛筆でいろんな線をひっぱった)。
[#図2、電車の図面]
 しかしこれは電車が静止していたときの話で電車が若し五十キロの速度で左へ走っていたものとすると、弾丸が向いの窓をとおって被害者の胸に達するまではすこし時間がかかりますから、創口《きずぐち》はずっと右側へ寄り、恐らく右胸か又は右腕あたりに当ることになります。しかも赤星龍子嬢は心臓より反対に左によった箇所を真正面から打たれているのですから、これは弾丸が、鋼鉄板《こうてついた》を打ち破り尚《なお》も物凄い勢いをもって被害者の胸を刺すことにならねば出来ない相談です。無論、現場《げんじょう》をしらべてみると、鋼鉄板に孔《あな》があいているどころか、弾丸の当ったあともありません。明らかにこれは車内で弾丸を射った証拠《しょうこ》です。車内で射ったという條件がきまると問題は大変簡単になります。車外の出来ごとは悉《ことごと》く問題の外《ほか
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