な」と警部は云って、首を肯《うなず》かせた。
「犯人は車外から射撃したと思わせるためにいろんな注意を払っています。弾丸が向いの窓を通ったと思わせるために、被害者の前面には必ず空席をちょっと明けて置きました。射殺地点の一致は、車外に正確な器械があるのだと思わせるに役立ちました。被害者が十字架と髑髏《どくろ》のついた標章《マーク》を持っているということは、車内にいる犯人が犯行の直後に自ら標章を被害者のポケットにねじこんだものと考えられるのを、逆に車外の器械の正確さに結びつけることによって考えをかき乱《みだ》しました。兎《と》に角《かく》、薬莢《やっきょう》を拾わせたり、時にはタイヤをパンクさせて擬音《ぎおん》を利用したり、うまくごまかしていましたが、最後に赤星龍子嬢の傷口《きずぐち》によって一切のインチキは曝露《ばくろ》しました。
 龍子嬢は車輌の後方の隅に身体をもたせていました。彼女が正確に正面に向いていたことは始終眼をはなさなかった多田刑事が保証しています。彼女の向いの座席の窓枠《まどわく》は、鋼鉄車《こうてつしゃ》のことですから向って左端《さたん》から測《はか》って十センチの幅《はば
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