彼女は、われとわが身体を傷《きずつ》けたんじゃなかったか。彼女の自殺! あの怖ろしい省線電車の射撃手は、実に赤星龍子だったんだ。)
 そう思って眺めると、彼女を伝研《でんけん》の病室に送る一行の物々しさは、右の推定《すいてい》を裏書《うらが》きするに充分だった。
「赤星龍子はカンフルで持ち直して、うまくゆくと一命はとりとめるかもしれないということだ」
 そんな噂が、伝研ゆきの自動車が出て行ったあとで、駅員たちの間に拡って行ったほどだった。果して龍子は助かるだろうか。のこる四人の容疑者の謎は、もうとけたのだろうか。


     7


「大江山さん。手筈《てはず》はいいですか」
「すっかり貴方の仰有《おっしゃ》るとおり、やっといたです。帆村君」
 ここは伝研の病室だった。伝研の構内には、昼間でも狸《たぬき》が出るといわれる欝蒼《うっそう》たる大森林にとりまかれ、あちこちにポツンポツンと、ヒョロヒョロした建物が建っていた。今は、ましてや真夜中に近い時刻であるので、構内は湖の底に沈んだように静かで、霊魂《れいこん》のように夜気《やき》が窓硝子《まどガラス》を透《とお》して室内に浸《し》みこ
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