て、悪い気持はしなかった。
帆村探偵と大江山捜査課長とは、顔を近づけて、それから約二十分というものを、低声《ていせい》で協議をした。それが終ると、大江山警部の顔色は、急に生々と元気を恢復してきたように見えた。
「さあ、赤星龍子さんを、伝染病研究所の手術室へ送るんだ。ここから一番近くていい。それから私も、そっちの方へ行くから、用事があったら電話をかけて貰いたい」
部下一同は呆気《あっけ》にとられたのだった。大江山課長は、今宵《こよい》三人の犠牲者を出したこの駅に、徹夜して頑張るのだろうと、誰もが思っていた。なんの面目《めんぼく》があってオメオメ此の現場を去ることができるのか。それに、電車はまだひっきりなしに通る筈だ。終電車までにまだ二時間もあるではないか。それを気に留めないで引き払おうという課長の意が、那辺《なへん》にあるかを計りかねた一同だった。
頭の働く部下の一人は、こう考えた。
(課長が重症の赤星龍子について引上げるというは、最早《もはや》今夜は犯罪が行われないことがわかったのだ。なぜそれが確かになったのであるか。――うん、もしかすると、赤星龍子が射たれたというのは間違いで、
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