扉《こドア》をひらいて後の車へ行ったのを見たと云った者がいた。驚いて後の車を尋《たず》ねてみたが、田舎者の爺さんなんか、誰も見たものがないというのだった。
「なに、どこにも見当らないって」その報告をきいた大江山警部は、鈍間《とんま》な刑事を殴《なぐ》りたおしたい衝動《しょうどう》に駆《か》られたのを、やっとのことで我慢した。
「課長どの、こういう方がお目にかかりたいと仰有《おっしゃ》いますが」と部下の一人が、一葉《いちよう》の名刺を持って来た。とりあげてみると、
「私立探偵。帆村荘六」
大江山警部は、帆村の力を借りたい心と、まだ燃えのこる敵愾心《てきがいしん》とに挿《はさま》って、例の「ううむ」を呻《うな》った。そのとき側《かたわ》らに声があった。
「大江山さん。総監閣下を通じてお願いしましたところ、お使い下さるお許しを得たそうでして大変有難うございました」
「やあ、帆村君」警部は、青年探偵帆村荘六の和《なご》やかな眼をみた。事件の真只中《まっただなか》に入ってきたとは思われぬ温容《おんよう》だった。彼は帆村を使うことを許した覚えはなかったが、それは多分帆村探偵の心づかいだろうと悟っ
前へ
次へ
全54ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング