社の前あたりまで来たときに、そこにいた地方出身の爺《じい》さんが、窓をあけちまったんです。私が止めようとしたときにはもう遅うございました」
「君は一体どこに居たんだ」
「向うの入口(と彼は指を後部|扉《ドア》へさしのべた)から龍子を監視していたのです」
「龍子は死んだか」そう云って警部はうしろを向いた。彼女は軽便担架《けいべんたんか》の上で、裸にむかれていた。
「課長さん、重傷ですが、まだ生きています。創管《そうかん》は心臓を掠《かす》って背中へむけています。カンフルで二三時間はもっているかも知れません」と医師が言った。
「意識は恢復《かいふく》しないかネ」
「むずかしいと思いますが、兎《と》に角《かく》さっきから手当をしています」
「輸血でもなんでもやって、この女にもう一度意識を与えてやってくれ」警部は、紙のように真白な赤星龍子の顔を祈るようにみてそう云った。
「多田君、田舎者の爺《じい》さんというのは、どこに居るか」
「はァ、そこに居ますが……」そう云って多田刑事は車内の連中の顔をみまわしたが居なかった。刑事は狼狽《ろうばい》して、一人一人を訊問《じんもん》した。その結果、仕切の小
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