車にのりました。八時半でした。すると、私と赤星龍子の乗っていた車輌に、また殺人事件がおこりました」
「なに、人が殺された。銃創《じゅうそう》かい」
「そうです。若い婦人、二《ふた》ツ木《ぎ》兼子《かねこ》という名前らしいです。弾丸のあたったのは、矢張り心臓の真上です」
「よし、直ぐゆく。乗客は禁足《きんそく》しといたろうな」
「それが皆、出ちまったのです。あまり早く駅についたものですから……」
「馬鹿!」
 大江山捜査課長はカンカンに怒って、四十|哩《マイル》で自動車を飛ばして、待避線《たいひせん》に収容された死人電車にとびこんでいった。
「課長、こっちに殺されています」と悄気《しょげ》かえった多田刑事が案内した。
「龍子はどうした」
「目黒で降りたようです」
「屍体なんか、どうでもよいから、今度からは龍子を其の場でとりおさえるんだぞ」
「課長、例の十字架に髑髏《どくろ》の標章《ひょうしょう》の入った小布《こぬの》が、死体の袂《たもと》の中から出てきました」
 第二の犠牲者二ツ木兼子は二十歳あまりの和服すがたの丸ぽちゃ美人だった。
「弾丸は、この窓から、とんで入ったらしいです」
「地点
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