の飛来方向がちゃんと出て来たので現場を中心として、鉛筆でその方向に長々と直線をひっぱった。それは線路に、ほとんど九十度をなして交《まじわ》る方向だった。そして、なんとその弾丸線は、笹木邸の北隅《きたすみ》を貫いているのである。しかも弾丸線のぶつかった塀の下こそは、部下の多田刑事が、薬莢をひろってきた地点だったではないか。その地点から、電車の窓までの最短距離は僅々《きんきん》五十メートルしかなかったのだった。小さなピストルでも、容易に偉力《いりょく》を発揮できるほどの近さだった。
 それにしても、みすみす自分の邸が疑惑の的《まと》になると知りながら、この計算法を教えていった笹木光吉の真意というものが、警部にはサッパリ解らなかった。彼は、課長室の椅子にふんぞり反《かえ》って、大きい頭をいくたびとなく振ってみたものの、笹木の好意と悪意とが互いに相半《あいなか》ばして考えられるほかなかったのだった。
 ジリジリと喧《やかま》しく課長室の卓上電話が鳴ったのは、このときだった。
「課長どのですか」そういう声は、多田刑事だった。
「そうだ、多田君どうした」
「あの赤星龍子を渋谷からつけて、品川行の電
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