されたお嬢さんの直ぐ前に居たのだそうです」
「ああ、それでは若《も》しや日本髪《にほんがみ》の……」
「その通りです」
「その御婦人はどこに住んでいらっしゃいます」
「渋谷《しぶや》の鶯谷《うぐいすだに》アパート」
「お名前は?」
「赤星龍子《あかぼしりゅうこ》」
5
大江山警部は、夜に入っても、捜査課長室から動き出そうとしなかった。事件に関係のありそうな「謎」は後から後へと山積《さんせき》したものの、これ等《ら》を解くべき「鍵《キー》」らしいものは一向に見当らないのだった。
この上は恥《はじ》を忍び、あえて満都《まんと》の嘲笑《ちょうしょう》に耐えて、しっかりした推理の足場を組みたてて事件の真相を掴《つか》まなければならない。警部はその第一着として、笹木光吉の残して行ってくれた弾丸の飛来方向《ひらいほうこう》の計算にとりかかった。
改めて電話で、法医学教室へかおるの創管《そうかん》の角度は正確なところ、幾度となってるかを問いあわしたり、鉄道局を呼び出して、エビス目黒間に於ける電車の速度変化を訊《たず》ねたりして、数字を知ると、懸命に数式を解いた。なるほど、弾丸
前へ
次へ
全54ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング