はどうかッ!」
「昨日の一宮かおるの場合と全く同じなんです」
「ううむ」警部は呻《うな》った。
「専務車掌は倉内銀次郎か、どうか」
「違います。倉内は今日非番で、出てこないそうです」
そう言っているところへ、赤と金との筋の入った帽子を被《かぶ》った助役《じょやく》が、真蒼《まっさお》になって、とびこんできた。
「警視庁の方、ももも申し上げます」
「どうしたかッ」大江山警部は、ギョッとふりかえって、一喝《いっかつ》した。
「唯今、プラットホームへ入って来た上《のぼ》り電車で、乗客がまた一名射殺されました」
「なに、又殺されたッ、女か男か」
「奥様風の二十四五になる婦人です」
「上り電車の窓は皆締めるよう、エビス駅長へ警告しろッ」
「ハッ、でもこの暑さでは……」
「しっかりしろ、暑さよりも生命じゃないか、助役君」
待避線《たいひせん》にはガラ空《あ》き電車が二組も窮屈《きゅうくつ》そうにつながった。駅は上を下への大騒ぎだった。駅員はもとより、しっかりしていなければならない警官たちまでが、常識を喪《うしな》ったかのように、意味なく騒ぎまわった。捜査課長大江山警部だけは、眼を真紅《まっか》
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