が、わたくしが科学者であるというのを口実《こうじつ》にして、わたくしには関係のない事柄にまで科学的意見を徴《ちょう》されたことが、随分と多うございますのです」(上目黒《かみめぐろ》の笹木邸内新宅に於て)
「僕は帆村荘六《ほむらそうろく》です。僕は或る本職を持っている傍《かたわら》、お恥《はず》かしい次第ですが、『素人《しろうと》探偵』をやっています。無論、その筋の公認を得て居りまして、唯今の捜査課長の大江山も、僕を御存知です。こんどの殺人事件は別に依頼をうけたわけではありませんが、始終注意しています。ひょっとすると、事件の成行次第《なりゆきしだい》で、第一線に立たなきゃならないかも知れません。僕はこの事件に、非常な魅力を感じています」(電話にて)
「あたくしは、赤星龍子《あかぼしりゅうこ》と申します。あたくしは、自分自身のことを余り申上げる気が致しません。そのために疑いが深くなっても仕方がありません。こんな事件に、何《な》にも罪のないあたくしみたいなものが引込まれるなんて、あたし一生の不運だと思っていますわ、なんでもいいんです」(東京郊外、渋谷町《しぶやまち》鶯谷《うぐいすだに》アパー
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