と開いた。入って来たのは、給仕だった。
「速達でございます」そう云って給仕は、課長の机上《きじょう》に、茶色の大きい包紙のかかっている四角い包を置いて、出て行った。
 警部は、注意して包をひらいてみた。中には、「ラジオの日本」という雑誌の昭和五年十二月号が一冊入っているきりだった。それを取上げてペラペラと頁《ページ》をめくってみると、半頃《なかごろ》に頁《ページ》を折ってあるところがあった。そこを開けると、白い小布《こぬの》が栞《しおり》のように挿《はさ》まっていて、矢印が書いてある。矢印の示すところには赤鉛筆で、傍線《ぼうせん》のついている記事があった。表題は、「無線と雑音の研究」とあり、「大磯《おおいそ》HS生《せい》」という人が書いているのだった。大江山警部にとって、無線の記事は一向ありがたくなかった。彼は雑誌を抛《ほう》りだそうと思ったが、「雑音」という文字が、電車の騒音と関係がありはしまいかと思って、兎《と》に角《かく》、ぽつりぽつりと読みはじめた。直ぐに彼は、見当ちがいだったことに気がついたけれども、その記事は、思ったよりも平易《へいい》である上に、その内容は大江山警部の注
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