このように考えてくると、銃丸《たま》は車内でぶっぱなされたと考えるのが、本道《ほんどう》である。だが車内でズドンという音を聞いたものがないではないか。それなら消音《しょうおん》ピストルを用いたものと考えてはどうか。
 だが乗客の多くは逃げてしまった。商人と称する林三平と、小説家の戸浪三四郎とを疑うのは最後のことである。車掌の倉内は、たった一人で車掌室《しゃしょうしつ》に居ただけに、すこし弁明がはっきりしない。答弁にすこしインチキ臭いところが無いでもない。彼はピストルの音をきかなかったという。騒音《そうおん》に慣れた彼が、ピストルの音をきかなかったというのであるからそれは本当であろう。
 ところが刑事が出かけて、現場附近の住民に聞き正したところによると、当日夜の十時と十一時との間に爆音をきいたという人間が三人ばかり現れた。そのうちの一人は、現場《げんじょう》に割合い近い踏切の番人だったが、丘陵にひびくほど相当大きい音だったという。但し発砲の音というよりも、自動車がパンクしたような音に近かったという。これは帝都全市のタクシーや自家用自動車につき調査中であるから、二三日のうちに判明するで
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