のは炯眼《けいがん》だった。屍体の纏《まと》っていた衣服の左ポケットに、おかしな小布《こぬの》が入っていた。それは丁度《ちょうど》シャツの襟下《えりした》に縫いつけてある製造者の商標《しょうひょう》に似て、大きさは三センチ四方の青い小布で、中央に白い十字架を浮かし、その十字架の上に重ねて赤い糸で、横向きの髑髏《どくろ》の縫いがあった。
 この髑髏の小布《こぬの》はなにを示すものなのだろう。
 お守りなのであろうか、と考えた。あまりに平凡である。
 不図《ふと》思いついたことは、これはある不良少女団の団員章《だんいんしょう》ではないか、と。殺された一宮かおるは、××女学校の校長の愛娘《まなむすめ》だったのであるが、教育家の家庭から不良児の出るのは、珍らしいことではない。かおるは不良少女であったが、仲間の掟《おきて》を破ったために殺された、と見てはどうであろう。
 大江山警部は給仕を呼んで、不良少女|調簿《しらべぼ》をもってこさせると丹念にブラック・リストの隅から隅まで探しまわったが、かおるの名前も、その怪しげな徽章《きしょう》も見つからなかった。そうすると、未検挙の不良団なのであろうか。
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