説をとります。弾丸《たま》は車外から射ちこまれ、例の日本髪の婦人と僕との間をすりぬけて、正面に居た一宮かおるさんの胸板《むないた》を貫《つらぬ》いたのです。シュッという音は、銃丸《じゅうがん》が僕の右の耳を掠《かす》めるときに聞こえたんだと思います」
「もう外に聞かしていただくことはありませんか」
「現場に居た人間としては、もう別にありません。老婆心《ろうばしん》に申上げたいことは、あの現場附近を広く探すことですな。もしあの場合|銃丸《たま》が乗客にあたらなかったとしたら、銃丸は窓外へ飛び出すだろうと思うんです。いや、そんな銃丸が既に沢山落ちているかもしれません。そんなものから犯人の手懸りが出ないかしらと思います。屍体《したい》もよく検《しら》べたいのですが、何か異変がありませんでしたか」
「いや、ありがとう御座いました」と警部は戸浪三四郎の質問には答えないで、彼の労を犒《ねぎら》った。
4
大江山捜査課長は、警視庁の一室で唯《ただ》ひとり、「省線電車射撃事件」について、想念を纏《まと》めようと努力していた。
戸浪三四郎が「一宮かおるの屍体に異常はないか」と聞いた
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