う立場から僕は申すので、或いは実際と大いに違っているかも知れません。僕は殺された美少女、――一宮《いちみや》かおるさんと云いましたかネ、かおるさんの直ぐ向いに居たのですが、確かにピストルの爆音を耳にしませんでした。ですが、ちょっと耳に残る鈍《にぶ》い音をきいたんです。さよですなア、空気をシュッと切るような音です。きわめて鈍い、そして微《かす》かな音でした。これはどうやら右の耳できいたのです。右の耳というと、電車の進行方面の側の耳です。その行手には、倉内君の居られた車掌室があります。またその右の耳のある隣りには二尺ほど離れて、日本髪の婦人が腰をかけて居りました。そんなことから思い合わせると、弾丸《たま》は僕の身体より右側の方からとんで来たと思われます。林さんは僕よりずっと左手に居られたので関係はないようです。車内で射ったとすれば、私も嫌疑者《けんぎしゃ》の一人でしょうが、僕より右手にいた連中も同時にうたがってみるべきでしょう。日本髪の婦人は勿論のこと、失礼ながら倉内車掌君も同類項《どうるいこう》です」
「すると貴方は、車内説の方ですか」と大江山警部が尋ねた。
「いえ、寧《むし》ろ僕は車外
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