た商人|体《てい》の四十男で、もう一人は探偵小説家の戸浪三四郎だった。
「ばば馬鹿を言っちゃいかん」と其の商人体の男が、たまり兼ねて口を差入れた。「いま聞いてりゃ、車内の者が射ったということだが君が出て来たのは随分経ってからじゃないか。そんなに後《おく》れ走《ば》せに出てきて何が判るものか。第一、あたしはあの車内に居たが、ピストルの音をきかなかった。ね、あなたも聞かなかったでしょう」と戸浪三四郎の方を振りかえった。
戸浪は黙って軽く肯《うなず》いた。
「ほら御覧なせえ、鉄砲|弾《だま》は窓の外から飛んできたのに違《ち》げえねえ。あまり根も葉もないことを言って貰いたかねえや。手前《てめえ》の間抜けから起って、多勢《おおぜい》の中からコチトラ二人だけがこうして引っ張られ、おまけに人殺しだァと証言するなんて、ふざけやがって……」
「これ林三平さん、静かにしないか」と、車掌に喰ってかかろうとする商人体の男を止めたのは、大江山警部だった。「戸浪三四郎さんから何か別な陳述《ちんじゅつ》を承《うけたまわ》りたいですが」
「僕はすこし意見を持っています。先刻《せんこく》申しあげたように探偵小説家とい
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