だが、あの際、銃丸は車内で発射されたものか、それとも車外から射ちこんだものか、何《いず》れであると思うかね、君は」
 大江山警部が、少女の射ち殺された頃の事情を一向|弁《わきま》えぬ専務車掌に、こんなことを聞くのは、愚問の外のなにものでもないと思われた。
「車内で射ったんでしょうと思います」
 専務車掌の倉内は、警部の愚問に匹敵《ひってき》するような愚答《ぐとう》を臆面《おくめん》もなくスラリと述べた。
「じゃ君は何故、あの車輌に居た乗客を拘束《こうそく》して置かなかったのか」
「……只今《ただいま》になってそう気が付いたもんですから」
「そう思う根拠は、なにかね」
「別に根拠はありませんが、そんな気がするんです」
「それでは仕方がないね。なんだったら、ここに居られるあの時の乗客有志を一時退場ねがった上で、君の考えをのべて貰ってよいが……」
 車内に居た乗客の多くは、事件に係合《かかわりあい》になるのを厭《いや》がったものと見え、死人電車が目黒駅のプラットホームに着くと、バラバラ散らばってしまい、このところまで随《つ》いてきたのは僅か二人だった。その一人は、左手を少女の血潮で真赤に染め
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