、殺人の現場にかけつけてのちに見た事柄や、乗客から聞いたそれ以前の話など、既に読者諸君が御存知の事実を述べた。
「君は、事件の起ったときに、どの位置に居たかネ」大江山警部は訊問《じんもん》した。
「ハッ、やはりあの第四輌目に居りましたが、車掌室が別になっているもんで、早く気がつきませんでした」
「君は車掌室のどの辺に居たか」
「右側の窓のところに頭部を当てて立って居りました」
「事件の前後と思われるころ、何かピストルらしい音響をきかなかったか」
「電車の音が騒々《そうぞう》しいもので聞きとれませんでした」
「君は窓外の暗闇《やみ》に何かパッと光ったものを認めなかったかい」
「ハッそれは……別に」
「君の位置から車内が見えていたか」
「見えていません。カーテンが降りていましたから……」
「車内へ入ってから、銃器から出た煙のようなものは漂《ただよ》っていなかったか」
「御座いませんでした」
「車内の乗客は何人位で、男女の別はどうだった」
「サア、三十名位だったと思います。婦人乗客が四五人で、あとは男と子供とでした」
「その車の定員は?」
「百二名です」
「これは参考のために答えて貰いたいん
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