目の乗客は全部、外に追いだされた。
3
駆けつけた附近の医者は、電車の床《ゆか》の上に転《ころが》った美少女に対して、施《ほどこ》すべき何の策《すべ》をももたなかった。というのは、彼女の心臓の上部が、一発の弾丸によって、美事《みごと》射ちぬかれていたから。弾丸は左背部の肋骨にひっかかっているらしく、裸にしてみた少女の背中には弾丸の射出口《しゃしゅつぐち》が見当らなかった。「銃丸《じゅうがん》による心臓貫通――無論、即死《そくし》」と医者は断定した。
惨死体《ざんしたい》を乗せた電車は、そのまま回避線《かいひせん》へひっぱり込まれ、警視庁からは大江山捜査課長一行が到着し、検事局からは雁金《かりがね》検事の顔も見え、係官の揃うのを待ち、電車をそのまま調室《しらべしつ》にして取調べが始まった。
大江山警部は、やや青ざめた神経質らしい顔面を、ピクリと動かして、専務車掌の倉内銀次郎を招いた。
「倉内君、君に判っている一と通りを話してきかせ給え」
「ハァ、それはこうなんです」と彼は、係官の前の小机《こづくえ》の上に、線路図や、電車内の見取図を拡《ひろ》げて、彼が乗客の注意で
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