し開いて隣室に飛びこんだ。
「呀《あ》ッ」
 一同はその場に立ちすくんだ。
 真正面の大きい窓硝子が滅茶滅茶《めちゃめちゃ》に壊《こわ》れて、ポッカリ異様な大孔《おおあな》が出来、鉄格子《てつごうし》が肋骨《ろっこつ》のように露出していた。その窓の下に寝台があって、その上に寝ているのは重症の赤星龍子だった。ああしかし無惨《むざん》なことに、龍子の胸から下を蔽《おお》った白い病衣のその胸板《むないた》にあたる箇所には、蜂の巣のように孔があき、その底の方から静かに真紅な血潮《ちしお》が湧きだしてくるのだった。この場の光景は、何者かが窓外《そうがい》にしのびより、寝ている龍子に銃丸の雨を降らしたことを物語っていた。射ったのは誰だ。
「帆村さん、とうとう掴《つかま》えましたよ」
 格子《こうし》の外に近付いた人の顔がある。それは白い記者手帳を片手にもった東京××新聞の記者|風間八十児《かざまやそじ》だった。その後には雁字搦《がんじがら》めに縛られた男が、大勢の刑事に守られて立っていた。
 それは捜査課長に馴染《なじみ》の深い探偵小説家を名乗る戸浪三四郎の憔悴《しょうすい》した姿だった。
「帆村さん。お駄賃《だちん》にちょっと返事をして下さい」と風間記者は鉛筆を舐《な》め舐《な》め格子の間から顔をあげた。
「真犯人《しんはんにん》戸浪三四郎は、目立たぬ爺《おやじ》に変装したり、美人に衆人《しゅうじん》の注意を集めその蔭にかくれて犯罪を重ねた、いいですね」
 帆村は軽くうなずいた。
「戸浪三四郎が目星をつけて置いた掩護物《えんごぶつ》は片方の耳の悪い美女赤星龍子だった。龍子の隣りに席をとった彼は消音ピストルを発射して巧みにごまかした。ところが龍子の聴力は余程《よほど》恢復《かいふく》していたので、とうとう龍子に犯行を感付かれた。そこで彼は殺意を生《しょう》じたが、マンマとやり損じた。いいですね、帆村さん。
 ええと、それから、龍子は重症だが、一命をとりとめると噂が耳に入ったので、戸浪三四郎は彼女の跡を追って伝研《でんけん》の病室へ忍び入り、機会を待った。チャンスが来た。寝ている龍子の心臓のあたりをポンポン打った。イヤ消音《しょうおん》ピストルだからプスプス射ったというんですね、そこを待ち構えていた刑事諸君の手でつかまっちまった。僕の手柄は手前味噌《てまえみそ》ですから書きません
前へ 次へ
全27ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング