た被害者達の体内をくぐった弾丸の溝跡《こうせき》の寸法と完全に一致した。
「ではこのピストルは、笹木君のか」警部はきいた。
「私のでは御座《ござ》いません」
「いえ、課長どの。この男が赤星龍子に殺意を持っていたことは確かなんです。この手紙をみて下さい」そう云ってる多田は、龍子から笹木にあてた手紙の束《たば》をさし出した。それを読んでみると、このところ両人の関係が、非常に危怡《きたい》に瀕《ひん》しているのが、よく判った。
笹木光吉は不貞不貞《ふてぶて》しく無言だった。大江山警部はこの場の有様と、帆村探偵の結論が大分喰いちがっているのを不審《ふしん》がる様子でチラリと帆村探偵の顔色を窺《うかが》った。
「そのピストルは犯人が直接に用いたピストルと違っています」帆村はピストルを調べたのち静かに言った。
「溝跡《みぞあと》までが同じであるのに、違うというんですか」警部は、すこし冷笑を浮べて云った。
「そうです」帆村はキッパリ答えた。「これも犯人のトリックです。犯人はピストルの弾丸《だんがん》には人間で言えば指紋のようにピストル独特の溝跡《こうせき》がつくこと位よく知っていたのです。彼はそこをごまかすために、多田さんが唯今お持ちになったピストルを、軟《やわらか》い地面に向けて射った後、土地を掘りかえして弾丸《だんがん》を掘りだしたんです。犯人は、こうしてピストル特有の溝跡がついた弾丸を、又別に持っている無螺旋《むらせん》のピストル、それは多分、上等の玩具《がんぐ》ピストルを改造したんだろうと思われますが、その別なピストルに入れて、省線電車の中に持ちこんだんです。よく調べてごらんなさい。屍体《したい》の中から抜きとった弾丸には、薬莢にとめるときについた鍵裂《かぎさけ》の傷がついています」
大江山警部は、この執念ぶかい犯人のトリックに、唯々《ただただ》呆《あき》れるばかりだった。
「すると真犯人は玩具ピストルに、この弾丸《たま》を籠《こ》めたのを持っているんですな。笹木君は犯人ではないのですか」
「笹木君ではありません」と帆村が言下《げんか》に答えた。
「では犯人の名は……」
その瞬間だった。
「ガチャリッ」と硝子《ガラス》の破れる音が隣室《りんしつ》ですると、屋根から窓下にガラガラッと大きな物音をさせて墜落《ついらく》したものがある。ソレッというので一同は扉《ドア》を押
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