》の、内面に板を張った縦長《たてなが》の壁となりそれから右へ四角い窓が開いています。もし車外から彼女の心臓を射ったとすると、この窓枠の縁《ふち》をスレスレに弾丸が通るはずです(と、彼は紙に書いた電車の図面の上へ鉛筆でいろんな線をひっぱった)。
[#図2、電車の図面]
しかしこれは電車が静止していたときの話で電車が若し五十キロの速度で左へ走っていたものとすると、弾丸が向いの窓をとおって被害者の胸に達するまではすこし時間がかかりますから、創口《きずぐち》はずっと右側へ寄り、恐らく右胸か又は右腕あたりに当ることになります。しかも赤星龍子嬢は心臓より反対に左によった箇所を真正面から打たれているのですから、これは弾丸が、鋼鉄板《こうてついた》を打ち破り尚《なお》も物凄い勢いをもって被害者の胸を刺すことにならねば出来ない相談です。無論、現場《げんじょう》をしらべてみると、鋼鉄板に孔《あな》があいているどころか、弾丸の当ったあともありません。明らかにこれは車内で弾丸を射った証拠《しょうこ》です。車内で射ったという條件がきまると問題は大変簡単になります。車外の出来ごとは悉《ことごと》く問題の外《ほか》に置いていいのです」
そう云って帆村探偵はちょっと言葉をきった。
「なるほど面白い推理ですね」と大江山警部は大きく頭をふって云った。「すると犯人の名は……」
と云いかけたところへ、けたたましい警笛《けいてき》の響《ひびき》がして、自動車が病舎の玄関まで来てピタリと止った様子だった。やがて廊下をパタパタと跫音がすると、病室の扉《ドア》にコトコトとノックがきこえた。帆村探偵が席を立って開けてみると、多田刑事が笹木光吉を連れて立っていた。
「課長どの、すっかり種をあげてきました」と多田は晴やかに笑顔を作った。「これです、消音式《しょうおんしき》で無発光のピストルなんです。笹木邸の大欅《おおけやき》の洞穴《ほらあな》に仕かけてあったんです」といって真黒な茶筒《ちゃづつ》のようなものを、ズシリと机の上に置いた。
大江山警部が茶筒をあけてみると、内部には果して一挺《いっちょう》のピストルが入っていた。弾丸をぬき出してみると、確かに口径《こうけい》四・五センチだ。ピストルの内部を開いて螺旋溝《らせんこう》の寸法《ディメンション》を顕微鏡《けんびきょう》で測ってみると、兼《か》ねて押収して置い
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