そうとう》頼母《たのも》しい探索をしていてくれるから、彼と同盟すれば、大いに便宜《べんぎ》が得られるであろうという見込みだが、但し戸浪自身が犯人の場合は全く失敗になるわけだった。戸浪に会って気をひいた上で決定しようと考えた。赤星龍子が笹木の愛人であるのは驚いたが、前後二回も、殺人のあった電車にのっていたのは、一寸《ちょっと》偶然とは考えられない。実は先刻部下に命じて置いた龍子の動静《どうせい》報告がきた上で、もすこし詳《くわ》しく考えてみたい。……
大江山警部は電話のある室を出て、階段をプラットホームに下りながら、懐中時計を出してみた。もう夜も大分《だいぶ》更《ふ》けて、ちょうど十時半になっていた。昨日の今頃突如として起った射殺事件のことを思いだして、いやな気持になった。すると、どこやら遠くで、非常|警笛《けいてき》の鳴るのをきいた、と思った。
彼は階段の途中に立ちどまった。
「ポ、ポ、ポ、ポッ」
ああ、警笛《けいてき》だ。紛《まぎ》れもなく、上《のぼ》り電車の警笛だ。次第次第に、叫音《きょうおん》は膨《は》れるように大きくなってくるではないか。彼は墜落《ついらく》するように階段を駆けくだった。そのとき丁度《ちょうど》、叫喚怒号《きょうかんどごう》する人間を積んだ上り電車が、驀地《まっしぐら》にホームへ滑りこんできたのだった。
「やられたかッ」警部は呶鳴《どな》った。
「また若い婦人です」と車掌が窓から叫んだ。
「窓があいているじゃないか、あれほど言ったのに」警部は真赤になって憤慨した。
「エビス駅を出るときには閉っていたんです」
「よォし、では乗客を禁足《きんそく》しとくんだぞ」
「わかりましたッ」
大江山警部は、若い婦人の屍体《したい》が転《ころが》っているという二輌目の車輌の前へ、かけつけた。窓がパタリと開いて、多田刑事の泣いているような顔が出た。
「課長どの、殺されたのは赤星龍子です」
「えッ、赤星龍子が――」
総監から注意のあったばかりの女が殺された。警部自身が大きい疑問符を五分ほど前にふったその女が殺されたのだった。警部は車中へ入ってみた。
「課長どの」と多田刑事は警部をオズオズと呼んで、この車輌の一番先端部にあたる左側客席の隅《すみ》を指《さ》した。
「ここの隅ッ子に龍子が腰を下ろしていました。向い側の窓はたしかに閉っていたんですが、ビール会
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