かぜん》、二つはピタリと合って、一つのものになった。警部が硝子函からとり出したのは、殺された一宮かおるの体内から抜きとった弾丸だったので、多田刑事の拾ってきたのは、紛《まぎ》れもなく、その弾丸を打ち出した薬莢にちがいないと思われる。薬莢が二個で、弾丸は一個――そこに謎がないでもなかったが。
「お手柄だ。そして笹木邸をあたってみたかい、多田君」
「早手廻《はやてまわ》しに、若主人の笹木|光吉《こうきち》というのを同道《どうどう》して参りました。ここに大体の聞書《ききがき》を作って置きました」
 そう云って、多田刑事は、小さい紙片《しへん》を手渡した。警部は獣《けもの》のように低く呻《うな》りつつ、多田の聞書というのを読んだ。「よし、会おう」
 案内されて、室へ静かに姿をあらわした笹木光吉は、三十に近い青年紳士だった。色は黒い方だったが、ブルジョアの息子らしく、上品ですこし我《が》が強いらしいところがあった。
「飛んだ御迷惑をかけまして」と大江山警部の口調は丁重《ていちょう》を極《きわ》めていた。「実は部下のものが、こんなものを(と、二個の薬莢と一個の弾丸を示しながら)拾って参りましたが、薬莢の方はお邸の塀下に落ちて居り、弾丸は、ここに地図がありますが、線路を越してお邸《やしき》の向い側にあたる草叢《くさむら》から拾い出したのです。お心あたりはございませんか」
 そう云って刑事は、白い西洋紙の上に、三品をのせて差し出した。多田刑事は、課長の出鱈目《でたらめ》に呆《あき》れながら、青年の顔色を窺《うかが》った。
「一向に存じません」と笹木はアッサリ答えた。「指紋が御入用《ごいりよう》なら、遠慮なく本式におとり下さい」
 大江山警部は、笑いに、赭《あか》い顔を紛《まぎ》らせながら、白い西洋紙をソッと手許《てもと》へひっぱったのだった。
「九月二十一日の午後十時半には、どこにおいででしたか、承《うけたまわ》りたい」
「家に居ましたが、もう寝ていました。私はラジオがすむと、直《す》ぐ寝ることにして居りますから……」
「おひとりでおやすみですか」
「ええ、どうしてです。私のベッドに、独《ひと》り寝ます。妻は、まだありません」
「誰か、当夜ベッドに寝ていられてのを証明する人がありますか」
「ありますまい」
「十時半頃、何か銃声みたいなものをお聞きになりませんでしたか」
「いいえ。寝
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