、その根本のところはまっ白な白毛であった。鳥打帽子がぬげているそばには、茶色のガラスのはまった眼鏡《めがね》が落ちていた。
 老人は、苦しそうに顔をあげて、春木の方へ顔をねじ向けた。が、一目春木を見ただけで、がっくりと顔を地面に落とした。全身の力をあつめて、自分に声をかけた者が何者であるかをたしかめたという風であった。
 老人は、うんうん呻《うな》りはじめた。
「しっかりして下さい。傷はどこですか」
 と、春木はつづいて叫びながら老人を抱《いだ》きおこした。
 分《わか》った。老人の胸はまっ赤であった。地面《じめん》におびただしく血が流れていた。傷は、弾丸《だんがん》によるものだった。左の頸《くび》のつけ根のところから弾丸《たま》がはいって、右の肺の上部を射ぬき、わきの下にぬけている重傷であったが、春木少年には、そこまではっきり見分ける力はなかった。しかし傷口《きずぐち》があることは彼にもよく見えたので、そこを早くしばってあげなくてはならないと思った。
 しばるものがない。繃帯《ほうたい》があればいいんだが、そんなものは持合わせがない。
 どうしようか。そうだ。こうなれば服の下に着てい
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