上って、手をふって、上のヘリコプターへ、合図《あいず》のようなことをした。ヘリコプターの胴の窓からも、一人の男が上半身を出して、下へ手をふって合図した。
 下の男は、分ったらしく、合図に両手を左右へのばした後で、ロープの端を手にとって、戸倉老人に近づくと、老人の身体をロープでぐるぐる巻きにしばりつけた。
 それから自分は、老人よりもロープの上の方にぶら下った。
 それが合図のように、ロープはぐんぐんヘリコプターの方へ巻きあがっていった。ヘリコプターは、宙に浮いて、じっとしている。この有様を、牛丸少年は、あっけにとられて柿の木の上から見ていた。
 ところが、とつぜん作業衣の男が、片手をはなして、牛丸少年の登っている柿の木を指《さ》した。と、ぱっと強い探照灯の光が牛丸少年の全身を照らしつけた。
「うわッ。たまらん」牛丸平太郎は生れつきものおじをしない楽天家であったが、このときばかりは、もう死ぬかもしれないと思った。彼は目がくらんで、呼吸《いき》をすることができなくなった。彼は懸命に、両手と両足で、柿の木の枝にしがみついていた。目は、全然ものを見分ける力がなくなった。
「柿の木の上で、目はみ
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