った。頭目が、覆面の中からさけんだ。
「うむ。波《なみ》はそこに控《ひか》えておれ。木戸。その少年を前につれてこい。直接、話をしてみる」
 若い男は、入口を背にして、佇《たたず》んだ。
 木戸が前にでていって、牛丸少年の肩をつかんで、頭目の前に引立てた。
「手荒《てあ》らにはしないがいい」
 頭目は木戸に注意をした。
「これ、牛丸平太郎。お前にたずねたいことがあったから、ここまできてもらった。これからたずねることに正直に答えるのだぞ。もしうそをついたら、そのときはひどい罰をうけるから、うそはつくなよ」
 太い威厳《いげん》のある頭目の声が、牛丸の胸を刺した。
 牛丸少年は、だまっている。彼は、頭目の顔の前にたれ下っている三重のベールがふしぎで仕方がなかった。
「おい、牛丸平太郎。お前は、戸倉老人から黄金メダルの半分をうけとったろう。正直に答えよ」
 頭目はそういって、牛丸の返事はどうかと、上半身を前にのりだした。牛丸少年は、それでもだまっていた。
 頭目は少年が返事をしないので、機嫌をわるくした。彼は肩を慄《ふる》わせ、
「さあ、早く答えよ。お前が戸倉老人から渡された黄金メダルの半分は、どこへ隠して持っているのか」
 と、声をあらくしていった。
「ぼくにものを聞きたいのやったら、聞くように礼儀をつくしたらどうです。昨日からぼくを罪人《ざいにん》のようにひどい目にあわせて、さあ答えよといっても誰が答える気になるものか」
 牛丸は、はじめて口を開くと、相手の非礼をせめた。
「お前から礼儀のお説教を聞くために呼んだのではない。こっちからたずねることだけに答えればよい。それを守らなければお前の気にいるような拷問《ごうもん》をいくつでもしてあげるよ。たとえば、こんなのはどうだ」
 頭目が、椅子の腕木のかげにつけてある押釦《おしボタン》の一つをおした。すると天井から、鍋《なべ》をさかさに吊ったようなものが長い鎖《くさり》の紐《ひも》といっしょに、すーッと下りてきた。そして牛丸少年の頭に、その鍋のようなものがすっぽりかぶさった。
「あ痛ッ」鎖はぴーんと張った。そして鍋のようなものはしずかに持ちあがった。と、それに牛丸の頭髪が密着したまま、上へひっぱられていくのであった。


   あの手この手


「痛い、痛い」牛丸少年は宙吊《ちゅうづ》りになった。
 痛い。髪の毛がぬけそうだ。もがくと、ますます痛い。牛丸は歯をくいしばり、ぽろぽろと涙を流した。
「これは拷問《ごうもん》の見本だから、そのへんで許してやろう。お前たちの年頃は、わけもわからずに生意気でいけない。そう生意気な連中には拷問が一番ききめがある」
 頭目は、けしからんことをいってから、拷問をとめた。鍋のようなものは、牛丸の頭髪をはなして、鎖紐と共にがらがらと天井の方へあがっていった。
 日頃はのんき者の牛丸平太郎も、この拷問には参った。このような野蛮な責め道具を、さかんに持っているのだとすれば、うっかりことばもだせない。
「そこで、もう一度聞き直す。戸倉老人から渡された黄金メダルの半分は、今どこにあるのか。さあ、すぐ答えなさい」
 頭目の声は、以前よりはやさしくなった。やさしくなったが、その口裏《くちうら》には、「こんど答えなければ本式に拷問してやるぞ」との含みがある。返事をしないわけにいかない。
「ぼくは正直にいいますが、戸倉老人だの黄金メダルだのといわれても、何のことやら、さっぱり分りまへん。これはほんとです」
「なにイ……まだうそをつくか。それなれば――」
「いくら拷問されたって、今いったことはほんとです。今いうたとおり、なんべんでもくりかえすほかありまへん。それとも、ぼくからうそのことを聞きたいのやったら、拷問したらよろしいがな」
 しゃべっているうちに牛丸はしゃくにさわってきて、又もやいわなくてもいいことまでいってしまった。
「知らないとはいわさん。それでは、証拠をつきつけてやる。戸倉老人をここに引きだせ」
 頭目の命令によって、戸倉老人がこの部屋へつれてこられた。車のついた椅子にしばりつけられていることは、この前と同じだ。ひげ面をがっくり垂《た》れて目を閉じている。
 戸倉老人の椅子は、頭目の前で、牛丸少年といっしょに並べられた。机博士がつかつかとやってきて、戸倉老人を診察した。それはかんたんにすんだ。机博士は自席にもどる。
「牛丸少年。お前の前にいるのが戸倉老人だ。この老人なら見おぼえがあるだろう。生駒の滝の前で、お前はこの老人から何を受取ったか。それをいっておしまい」
「この人、知りません。今はじめて会うた人です」
 牛丸は、そう答えた。彼は生駒の滝の前に倒れていたのがこの老人かもしれないと思った。しかしあのときは、顔をよく見たわけでない。ヘリコプターから機銃掃射《き
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