くしておくものだから、つい荒療治《あらりょうじ》もせにゃならん。しかも貴様があんなに苦労して、手に入れたり、かくしたりしていた黄金メダルの半ペラが、贋物《にせもの》だったというのだから、こんないい面《つら》の皮《かわ》はない。は、は、は、人を呪《のろ》わば穴二つとはこのことだな」
「ちがう、ちがう、そんなはずはない」
 木戸と波立二に、左右から手をとられた机博士は、金切声《かなぎりごえ》をふりしぼった。
「あれが贋物だなんて、そんな、そんな……あれは時代のついた古代金貨《こだいきんか》だ」
「そうよ、時代のついた古代金貨だ。しかし、やっぱり贋物なんだ。まあ聞け、机博士、そのわけをいま話してやろう」
 四馬剣尺はゆらりと椅子から乗りだすと、
「貴様も知ってのとおり、あのメダルは、海賊王デルマが、埋《うず》めた財宝のありかをしるして二つにわり、ひとつをオクタン、ひとつをヘザールというふたりの部下に譲《ゆず》ったのだ。このヘザールの子孫《しそん》というのがこのおれ、即ち四馬剣尺様だ。それからオクタンの子孫というのが、あの戸倉八十丸《とぐらやそまる》じゃ。ヘザールの子孫もオクタンの子孫も、宝をさがして東洋の国々を遍歴《へんれき》しているうちに、代々東洋人と結婚したから、しだいに東洋人の血が濃《こ》くなっていったのじゃ。ところで、海賊王デルマにはもう一人、ツクーワという部下がおったが、こいつは肚黒《はらぐろ》いやつで、デルマを裏切ったことがあるので、放逐《ほうちく》されて宝のわけまえにあずからなかった。それを怨《うら》んでツクーワは、ヘザールとオクタンの持っている半ペラを、しつこく狙っていたが、ただ一度だけ、オクタンの半ペラを手に入れたことがある。そのときツクーワはその半ペラの贋物をこさえておいたのだが、その後間もなく、オクタンにつかまり、殺されて、半ペラは本物も贋物も、ふたつともオクタンの手に入ったのじゃ。貴様が手に入れて、虎《とら》の子のように後生大事《ごしょうだいじ》にしていたのは、即ち、その昔ツクーワのつくった贋物で、しかも、ツクーワとは誰あろう、机博士、貴様の先祖だぞ。どうだ、これでわかったろう。先祖がつくった贋物に、子孫のものが欺《あざむ》かれる。世の中にこれほど滑稽《こっけい》なことがあろうか。わっはっはっ!」
 われ鐘のような声で笑いとばされ、机博士はいっぺんにペシャンコになった。四馬剣尺はしばらく、腹をかかえてわらっていたが、やがてやっと笑いやめると、
「いや、しかし、机博士、おれはやっぱり貴様に礼をいわねばならぬわい。おれは今夜、戸倉のやつがチャンウーという中国人に化けていることを知って、忍びこんで、本物を吐きださせようと拷問《ごうもん》したが、強情《ごうじょう》なやつでとうとう吐きださなかった。それで、ものはためしに贋物で間にあわそうと思っているのだ。これがヘザールからつたわった扇型《おうぎがた》の半ペラ、これは本物だ。それからこっちが、机博士の肩の肉からでてきた、三日月型の半ペラ、こいつはいまいうとおり贋物だ」
 と、四馬剣尺がデスクのうえにならべてみせた。二つの黄金メダルの半ペラをみて、木戸と波立二が思わずあっと顔見合せた。
「頭目、そ、その扇型のやつはどうしたのです。それはいつか、猫女めに横奪《よこど》りされたはずじゃありませんか」
 木戸の言葉に、四馬剣尺ははっとした様子だったが、すぐさりげなくせせら笑って、
「なに、猫女から取りもどしたのよ。たかが知れた猫女、取り戻すのに雑作《ぞうさ》はないわい。さて、この半ペラをふたつあわすと、われ目も文句もぴったりあう、だから、ここに彫ってあるこの文句は、贋物とはいえ、本物どおりに彫ったにちがいないと思うんだ。みろ、これが苦心《くしん》の末《すえ》、おれが翻訳した文章なのだ」
 四馬剣尺が、ふところより取りだした紙片《かみきれ》をみて、机博士は禿鷹《はげたか》のようにどんらんな眼を光らせた。
 そこには、こんなことが書いてある。
[#ここから2字下げ、文章は横組み、「三日月型の分」が左側、「扇型の分」が右側に配置されている、罫囲み]
 三日月型の分[#「三日月型の分」は太字]
わが秘密を
とする者はいさ
人して仲よく
り聖骨を守る
のあとに現われ
メダル右破片
左の穴に同時
ただちに
強く押すべし
正しく従うなら
らの前に開かれん

 扇型の分[#「扇型の分」は太字]
うけつがん
かいをやめ両
ヘクザ館の塔にのぼ
二匹の鰐魚《がくぎょ》を取除きそ
たるそれぞれの穴に金
を右の穴に左破片を
に押入れ、それより
ふたつのメダルを
汝《なんじ》らわが命令に
ば金庫は自ら汝
[#ここで字下げ終わり]

   戦闘準備

 残虐な悪魔の頭目《とうもく》、四馬剣尺のために、両脚に
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