しようもない。
 牛丸平太郎は、みんなにかわいがられていた少年だから、この誘拐《ゆうかい》事件の反響も大きかった。ことに、その前に春木君が山の中で、行方不明になった事件のとき、牛丸君が誰より早くこれを知らせたことで、牛丸少年を知っている人は多かった。
 春木としても、一番仲よしの友だちを、そんなひどい目にされたので、くやしくてならなかった。それで、ぜひ捜査隊《そうさたい》の中へ加えて下さいと、先生にまでとどけておいたほどである。
「ああ、そうか。それはいいね。この前は、牛丸君が春木君の遭難を知らせた。こんどはその恩がえしで、春木君が牛丸君を探しにいくというわけだね。まことにいいことだ」
 と、受持の主任《しゅにん》金谷《かなや》先生は、ほめてくれた。
「先生。牛丸君は、なぜさらわれていったのでしょうか」
 その時春木は、先生にたずねた。
「それがどうも分らないんだ。牛丸君の家は旧家《きゅうか》だから、金がうんとあると思われたのかもしれないな。そんなら、あとになって、きっと脅迫状《きょうはくじょう》がくるよ」
「脅迫状ですか」
「うん。牛丸平太郎少年の生命《いのち》を助けたいと思うなら、何月何日にどこそこへ、金百万円を持ってこい――などと書いてある脅迫状さ。しかしほんとは牛丸君の家は貧乏しているので、そんな大金はないよ。もしそう思っているのなら、賊の思いちがいさ」
 金谷先生は、牛丸君の家の内部のことをよく知っているらしかった。
「それじゃあ、なぜ牛丸君は、さらわれたんでしょうね」
「分らないね。牛丸君は、君のようにとび切り美少年《びしょうねん》だというわけでもないし……そうだ、君は何か心あたりでもあるんじゃないか。あるのならいってみなさい」
 と、金谷先生は春木の顔をじっと見つめた。
 そのとき春木は、例の生駒《いこま》の滝《たき》の事件のことをいってみようかと思った。あのときからヘリコプターにねらわれているのではなかろうかといい出したかった。しかし春木は、それをいったら、あの黄金メダルのことまでうちあけてしまいたくなるだろうと思った。その黄金メダルは、今はもう彼の手もとにないのだ。すべてあれからあやしい糸がひいているように思う。それなら、ここで先生にうちあけてしまった方がいいのではないか。
 だが、春木は、ついに、それをいいださずにしまった。
 そのわけは、彼が口
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